会社へ請求できる場合とできない場合

労働災害が発生したからといって、全てのケースで会社に損害賠償を請求できるわけではありません。会社への損害賠償請求が認められるかどうかは、労働災害の発生について、会社に法的な責任があるか否かによって変わってきます。
会社へ請求できる場合の具体例
具体的な事例を元に、会社に損害賠償を請求できた代表的なケースをいくつかご紹介します。
安全配慮義務違反があった場合
会社には、従業員が安全に働けるよう、職場環境を整え、適切な設備を導入し、作業方法を指導する「安全配慮義務」が課せられています。この義務を怠った結果、労災が発生すれば会社は責任を免れません。
使用者責任が問われる場合
会社の従業員(上司や同僚など)の故意や不注意(過失)によって労働災害が発生した場合、会社はその従業員の行為について「使用者責任」を負うことがあります。
たとえば、同僚の不注意による作業中の事故です。建設現場で、同僚が重い資材を不安定な状態で運搬し、それが落下して別の作業員に直撃し負傷させた場合、同僚の作業ミスに対する会社の管理責任が認められました。
施設設置・管理の瑕疵が問われる場合
会社の建物や設備に不備があり、それが原因で労災が発生した場合、会社は損害賠償責任を負うことがあります。
たとえば、床の破損による転倒事故です。工場内の通路の床が長期間にわたって破損しているのを放置していたため、従業員がその箇所でつまずき、転倒して骨折した場合、会社に対する損害賠償責任が認められました。
会社へ請求できない場合の具体例
一方で、会社に法的な責任を問うことが困難であり、損害賠償請求が難しいケースもあります
労働者自身の故意や重大な過失が原因の場合
たとえば、労働者自身の故意や重大な過失が原因の場合です。労働者自身が会社の安全規則を明らかに無視したり、危険な行為を故意に行った結果として労災が発生したりしたようなケースでは、会社に責任を問うのは極めて困難です。
ただし、この場合でも会社の安全管理体制に不備があれば、その限りではありません。労働者側の過失が一部であったとしても、会社側の過失割合に応じて請求が可能な場合もあります。
予見不可能な不可抗力による場合
地震、津波、大規模な土砂災害など、会社が通常の努力では予見・回避できないような自然災害が原因で労災が発生し、会社が適切な対策を講じていたにもかかわらず被害を防げなかった場合、会社の責任を問うことは難しいでしょう。
労災保険の受給と会社への損害賠償請求は別
「労災保険から給付を受けているから、もう会社には何も請求できないのではないか?」
これは、私たちがご相談を受ける中で、よくある誤解です。
労災保険と損害賠償請求は切り分けて考える必要があり、請求項目や構造など異なる点がいくつもあります。
労災保険は、労働基準監督署に申請することで、国から治療費や休業補償などが給付される、いわば「社会保障」の制度です。会社の過失の有無にかかわらず、労働災害にあった労働者を救済することを目的としています。
一方で、会社への損害賠償請求は、会社に労働災害発生の責任(安全配慮義務違反など)がある場合に、労災保険ではカバーされない「不足分」を会社に求めるものです。
そのため、労災保険からの給付を受けつつ、別途、会社に対して損害賠償を求めることは、法的に全く問題ありませんし、むしろ、会社への損害賠償請求は、被災された方の正当な権利を守る上で非常に重要な手段となります。
安全配慮義務違反などがあれば会社に請求できる
会社に損害賠償を請求できるかどうかの最大のポイントは、会社に労働災害発生の責任、特に「安全配慮義務違反」があったかどうかです。
私たちが案件を進める上で、この安全配慮義務違反を立証するために注力するのは、次の3つの要素です。
これらの点について、客観的な証拠をしっかりと集め、論理的に構成していくことが、適切な損害賠償請求を成功させるための弁護士の役割です。
会社に追加で請求できる損害の内容
労災保険からの給付は、確かに労働者の生活を支えるものですが、それだけでは労働災害によって被ったすべての損害をカバーしきれないことがほとんどです。
そこで、会社に対しては、労災保険で補償されない部分の損害について、追加で賠償を求めることができます。
労災保険で既に受領済の内容の具体例
まず、労災保険から給付される主な費目を確認しましょう。
会社に追加で請求できる内容の具体例
労災保険から支給されず、追加で会社に請求できる主な項目は、次のとおりです。
慰謝料
労災保険からは慰謝料の支給はありません。事案に応じて、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料を会社に請求できます。
逸失利益
逸失利益とは、後遺障害により労働能力が喪失・低下した場合、将来にわたって得られるはずだった収入の減少分です。
労災保険では、障害の程度に応じた定額支給はあるものの、個人の具体的な減収を全て補償するものではありません。
そのため、逸失利益を追加で会社に請求できる可能性があります。
休業損害の差額分
労災保険の休業(補償)給付は約60%分の補償ですが、これとは別に特別支給金として20%分が支給されます。
会社への損害賠償額を計算する際、この特別支給金は差し引かれないため、休業によって得られなかった賃金(100%)から休業(補償)給付(60%)を差し引いた、残りの40%を会社に請求できる可能性があります。
その他の項目の会社への請求
個別事案に応じて、次のような項目を会社に請求できる可能性があります。
- 労災保険でカバーされない実費としてかかった治療費
- 入院中の日用品代
- 家族の付添費用
- 自宅療養中の介護費用
- 装具・器具購入費(義足や義手、装具、車椅子、特殊な医療器具等)
- 家屋改造費
- 自動車改造費
- 将来の介護費用
これらの損害は、労働災害の状況、負傷の程度、後遺障害の有無や重さによって大きく変動します。適正な賠償額を算定し、会社から最大限の補償を引き出すためには、専門的な知識と豊富な経験が不可欠です。

会社への損害賠償請求の流れ
会社への損害賠償請求の流れは次のとおりです。
1. 労災事故発生・治療・症状固定・後遺障害等級認定
まず、労働災害が発生したら速やかに医療機関で治療を受けます。
治療を続ける中で、これ以上治療しても改善が見込めない状態(症状固定)に至ったと医師が判断すれば、その時点で治療は一段落となります。
もし後遺障害が残った場合は、労働基準監督署に後遺障害等級認定の申請を行います。この等級認定は、会社への損害賠償請求における後遺障害慰謝料や将来の逸失利益を算定する上で、非常に重要です。
2. 会社との賠償交渉
算定した損害額に基づき、会社に対して損害賠償請求を行います。
まずは話し合いによる解決を目指し、会社側と責任の有無、過失割合、損害額などについて話し合いを進めます。
3. 労働審判や民事訴訟の提起
もし、示談交渉で会社側が納得のいく提案をしてこない場合や、話し合いに応じない場合には、次の段階へと移行します。
労働審判手続
裁判官と労働審判員が間に入り、原則として3回以内の期日で迅速な解決を目指す手続きです。非公開で行われるため、プライバシー保護の観点からもメリットがあります。
民事訴訟
労働審判でも解決に至らない場合や、より複雑な事案の場合には、民事訴訟を提起します。裁判所でお互いの主張と証拠を出し合い、最終的に裁判官が判決を下します。時間や費用がかかる傾向がありますが、最終的な解決手段となります。
労災保険と損害賠償請求の違い
労災保険と会社への損害賠償請求は、どちらも労働災害による損害を補償する目的を持ちますが、その性質や役割は大きく異なります。
労災保険と損害賠償請求の相違点
| 項目 | 労災保険 | 会社への損害賠償請求 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 労働者災害補償保険法 | 民法(不法行為、債務不履行)など |
| 申請・請求先 | 労働基準監督署 | 会社(雇用主) |
| 目的 | 労働者の生活保障、社会復帰支援 | 労働者が被った損害の適正な補償 |
| 会社の過失 | 会社の過失の有無は問わない(無過失責任) | 会社の過失(安全配慮義務違反)等が必要 |
| 補償内容 | 治療費、休業補償、障害給付、遺族給付など(定型的な補償) | 慰謝料、逸失利益(労災給付との差額)など(個別の損害に応じた柔軟な補償) |
| 特徴 | 迅速な給付が期待できるが、補償範囲が限定 | 精神的苦痛や将来の損失まで幅広く請求可能だが、会社の責任立証が必要 |
労災保険は、会社に過失がなくても給付を受けられるという点で、労働者にとって手厚いセーフティネットです。しかし、慰謝料が支払われないことなどからもわかるように、その補償には限界があります。
一方で、会社への損害賠償請求は、会社の責任を追及することで、労災保険ではカバーしきれない適正な損害を請求できる点が最大の特徴です。
よくあるご質問
在職したまま会社に請求できますか?
「会社に請求したら、居づらくなるのでは」「クビになったりしないか」といった不安は、当然生じると思います。
しかし、在職したまま会社に損害賠償請求を行うことは、法的に全く問題ありません。
労働基準法をはじめとする日本の法律は、正当な権利行使によって労働者が不利益な扱いを受けることを禁止しています。
しかし、感情的な対立が生じる可能性も否定できません。弁護士が代理人として交渉することで、皆さんが直接会社と対峙する負担を軽減し、冷静かつ専門的な立場で話を進めることができます。
自分に落ち度があっても請求できますか?
「あの時、もう少し気を付けていれば」とご自身を責めていらっしゃる方もいるかもしれません。
しかし、ご自身に一部落ち度(過失)があったとしても、会社に損害賠償請求ができる可能性は十分にあります。
法律の世界では、「過失相殺」という考え方があります。
これは、損害の発生や拡大に被害者側にも過失があった場合、その過失の割合に応じて、加害者(この場合は会社)が支払う損害賠償額が減額される、というものです。
たとえば、損害が1000万円発生し、会社に8割、ご自身に2割の過失があったと判断されれば、会社は800万円を賠償することになります。(わかりやすくするために数字を単純化しています。)
ご自身の過失割合がどの程度になるかは、事故の具体的な状況、会社の安全管理状況、ご自身の業務内容など、様々な要素を総合的に判断して決定されます。
会社への請求に時効はありますか?
会社への損害賠償請求には時効があります。この時効期間を過ぎてしまうと、原則として請求権が消滅してしまうことになり、注意が必要です。
時効期間は、労働災害の発生原因によって以下のように異なります。
時効期間のスタート時点をどこにするかという問題はあるものの、事故から5年を会社への損害賠償請求の期限の目安としておけば安心です。
まずは弁護士に無料相談
労働災害にあわれたとき、治療に専念し、心の平穏を取り戻すことが何よりも大切です。
会社への損害賠償請求は、法律や実務に関する専門知識が不可欠であり、ご自身だけで全てをこなすのは非常に大きな負担となります。
労働災害については、賠償一般の知識だけではなく後遺障害についてなど医学的見地も重要です。
お困りの方は、お早めに労働災害に詳しい弁護士に無料相談することをおすすめします。
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