ビルメンテナンス業でけがをしました。労災保険や会社からどのような補償をもらえますか?

ビルメンテナンス業における業務中のけがや通勤中のけがは、原則として労災保険の対象となります。

労災認定された場合、労災保険からは、治療費や休業期間中の賃金の一部、後遺症が残った場合の補償などが受けられます。

さらに、会社の安全配慮義務違反などが認められる場合には、労災保険の給付とは別に、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。この損害賠償には、労災保険でカバーされない慰謝料や逸失利益などが含まれます。

受け取れる補償の種類や金額は、けがの状況や会社の責任の有無によって大きく異なりますので、まずは弁護士にご相談ください。

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ビルメンテナンス業の特徴

ビルメンテナンス業は、清掃、設備管理、警備、環境衛生管理など多岐にわたる業務を含んでおり、さまざまな作業環境での労働が求められます。

主な業務には、高所での作業(窓ガラス清掃、照明交換)、設備の点検・修理(電気設備、空調設備)、清掃作業(床、トイレなど)等があります。

高所作業ではロープ、ゴンドラ、高所作業車などを使用する際の墜落・転落事故のリスクがあるため、安全帯や親綱の設置が求められます。

電気設備作業では、変電設備や空調設備の点検・修理に伴う感電事故のリスクなどが存在するため、設備の適切な管理とマニュアル作成などが求められます。

清掃作業では、フロアポリッシャーや高圧洗浄機などの機械使用による巻き込まれ事故や濡れた床での転倒事故のリスクがあります。

ビルメンテナンス業は事故態様が多様で、労働災害が発生するリスクが比較的高い業種といえます。労災事故の際、労働者は労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づき、給付を受ける権利があります。

労災保険で受けられる補償

労災保険は、業務上または通勤途上の災害によって労働者が負傷、疾病、障害、死亡した場合に、労働者やその遺族に対して給付を行う制度です。ビルメンテナンス業でけがをした場合、労災認定されれば次のような給付を受けられます。

療養(補償)等給付

療養費を支給する給付です。給付対象は、診察、薬剤、治療材料、手術、入院、看護など、療養に必要な費用全般です。

休業(補償)等給付

けがや病気の療養のため労働ができない状態となり、賃金を受け取ることができないときに支給されます。

障害(補償)等給付

けがや病気が治癒(症状固定)に至った後、身体に一定の後遺障害が残ったときに支給されます。障害の程度に応じて、第1級から第14級までの障害等級が定められています。

その他の給付

傷病(補償)年金、遺族(補償)等給付、葬祭料(葬祭給付)、介護(補償)等給付などがあります。

実際のケースを元にした労災保険の具体例

ビルメンテナンス業における、労災申請が認められる一般的な事例と、その際の給付の具体例をご紹介します。

オフィスビルの高所作業中の転落事故

事故の内容

オフィスビルの外壁ガラス清掃のため、ゴンドラ(または高所作業車)に乗って作業中、不意にバランスを崩し、ゴンドラから身を乗り出してしまった際に誤って転落し、重度の下肢骨折を負いました。

労災認定と給付内容

業務遂行中、業務に起因して発生した災害として、労災認定されます。

次のような補償があることが一般的です。

① 療養(補償)等給付
骨折治療のための手術費、入院費、リハビリテーション費用などが支給されます。
② 休業(補償)等給付
治療期間中、労働ができず賃金を受けとれない場合、休業4日目以降、給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+特別支給金20%)が支給されます。
③ 障害(補償)等給付
治療後も下肢に可動域制限や痛みなどの後遺症が残り、後遺障害等級第9級と認定された場合、一時金(給付基礎日額の391日分+特別支給金)が支給されます。重度の障害が残った場合は、年金による補償となります。

電気室の設備点検中の感電事故

事故の内容

ビル地下の電気室で、変電設備の定期点検作業中、遮断機操作のミスにより高圧電流に触れ、広範囲の熱傷(やけど)を負い、心臓にも障害を負いました。

労災認定と給付内容

業務遂行中、業務に起因して発生した災害として、労災認定されます。

次のような補償があることが一般的です。

① 療養(補償)等給付
熱傷治療のための専門的な治療費、皮膚移植手術費、入院費などが支給されます。
② 休業(補償)等給付
治療期間中、労働ができず賃金を受けられない場合、休業4日目以降、給付基礎日額の80%が支給されます。
③ 障害(補償)等給付
熱傷による皮膚の瘢痕(はんこん)や、心臓機能への障害が残った場合、それぞれの障害に応じた等級が認定されます。

たとえば、心臓機能障害が重度の場合は後遺障害等級第5級などがありえます。複数の障害が残った場合は、併合により等級が繰り上がることもあります。

会社に請求できる可能性のある損害賠償

労災保険の補償は迅速な救済を目的としていますが、精神的損害に対する慰謝料や休業補償との差額など、すべての損害をカバーするわけではありません。

会社に安全配慮義務違反や使用者責任(民法715条)、不法行為責任(民法709条)など、事故の原因となる過失があった場合、労働者は会社に対し、労災保険ではカバーできない損害の賠償を請求できます。

会社に請求できる場合とできない場合の具体例

請求できる可能性が高い事例

次のような事案では、会社に請求ができる可能性が高いです。

① 高所作業の事案
窓ガラス清掃において、会社がロープやゴンドラの点検を怠り、安全器具の摩耗や損傷が原因で従業員が墜落した場合。
② 設備管理の事案
電気設備の点検・修理において、会社が活線作業時の感電防止措置を怠り、感電事故が発生した場合。
③ 教育・指導不足の事案
新入社員に対し、会社がフロアポリッシャーの操作方法や危険性を十分に教育せず、機械に巻き込まれる事故が発生した場合。

請求が難しい事例

労働者が会社の適切な安全指示(例:安全帯の着用)を故意に無視し、危険な行為に及んだ結果、けがを負った場合。

休業損害

労働者が会社に対し損害賠償を請求する場合、休業期間中の賃金相当額(100%)が損害額となります。

ここから労災保険から支給された「休業補償給付(60%)」は差し引かれますが、「休業特別支給金(20%)」については損害賠償額から控除されません。

したがって、未払いの40%相当額を会社に請求することができ、結果として労働者は特別支給金を含め合計120%相当を受領できます。

入院や通院の慰謝料

けがによる精神的な苦痛に対して支払われる損害賠償金であり、労災保険からは給付されません。入院や通院の期間に応じて請求できます。

後遺障害の慰謝料

後遺障害が残った場合の精神的な苦痛に対する賠償です。労災保険からは支給されません。

労災保険の障害等級(第1級~第14級)に基づいて算定して請求します。

逸失利益

後遺障害により、事故前のように働けなくなり将来得られるはずだった収入の減少分に対する賠償です。事故前の収入に基づいて算定して請求します。

その他の請求

付添費用、将来の介護費用、自宅改造費用などがあります。

実際のケースを元にした会社への損害賠償の具体例

① 事案の概要
ビル外壁の設備点検作業において、安全帯をかけるための親綱(ライフライン)が古く、破断しやすい状態であることを会社が認識しながら放置していました。作業員が安全帯をかけたところ、親綱が破断して作業員が転落し、脊髄損傷の重傷を負いました。
② 会社の責任
会社が危険な作業環境を放置し、安全器具の管理・交換という安全配慮義務を著しく怠っていたため、会社に重大な過失が認められます。
③ 損害賠償の対象
会社に対して、次のような損害賠償が認められることが一般的です。
  • 労災給付で全額受領できなかった休業損害の差額
  • 入院・通院期間に対する入通院慰謝料
  • 重度の後遺障害(障害等級第3級など)に対する後遺障害慰謝料
  • 後遺障害による将来の収入減に対する逸失利益
  • 重度障害に対する将来の介護費用

労災保険の給付に加え、会社に対する損害賠償請求が認められ、数千万円から1億円超の補償を獲得した事例もあります。

よくあるご質問

パート・アルバイトでも労災申請や会社への請求はできますか?

できます。ビルメンテナンス業で働くパートやアルバイトの方も、「労働者」として労災保険法が適用されます。労災申請や会社への請求ができます。

日雇いでも労災申請や会社への請求はできますか?

できます。ビルメンテナンス業で働く日雇い労働者であっても、労働者として業務に従事している限り、労災申請や会社への請求ができます。

自分の不注意でけがをした場合も労災申請や会社への請求はできますか?

労災保険はご自身の不注意があっても原則給付されます。

しかし、会社への損害賠償請求では、わずかな不注意であっても「過失相殺」として、受け取れる金額が減額されることがあります。

たとえば、次のような事例では、過失相殺が適用されることが多いでしょう。

  1. 機械の操作手順を一部省略して指を挟んだ。
  2. 足元に注意を払わず、濡れた床で滑って転倒した。
  3. 会社から配布されたマニュアルを十分に確認せず、誤った方法で作業を行った。

休憩中のけがでも労災申請や会社への請求はできますか?

休憩中のけがであっても、それが会社の施設内で、業務に付随する行為中に発生したものであれば、業務災害として労災保険の対象となる可能性があります。

たとえば、従業員が利用する食堂で食事中に転倒した事例などは労災保険の対象となる可能性があります。会社に安全配慮義務違反があれば、会社への請求も可能です。

移動中のけがでも労災申請や会社への請求はできますか?

通勤中のけがは、通勤災害として労災保険の対象になります。

ビル間の移動や、資材運搬のための移動中のけがなどは、業務災害として労災保険の対象になります。会社に安全配慮義務違反があれば、会社への請求も可能です。

下請会社の従業員です。労災申請は下請会社と元請会社のいずれにすればよいですか?

労災保険の申請は、原則として実際に雇用契約を結んでいる下請会社を経由して行います。そのため、まずは勤務先である下請会社に報告し、手続きを進めることになります。

下請会社が協力してくれないような場合は、管轄の労働基準監督署へ相談することをおすすめします。

まとめ:まずは弁護士に相談

ビルメンテナンス業におけるけがは、労災保険による給付と、会社の責任を追及する損害賠償請求という、2つの大きな補償の柱があります。

労災保険の給付額や、損害賠償請求の計算方法には、専門的な知識が必要です。また、会社に損害賠償を請求するためには、会社の安全配慮義務違反を立証するための証拠収集と、複雑な法的手続きが必要です。

よつば総合法律事務所では、労働災害に関するご相談を無料で受け付けております。ビルメンテナンス業でのけがで「もらえる補償額を知りたい」「会社に請求できるのかどうか知りたい」とお考えの方は、まずはお気軽にご相談ください。