労災で肩の腱板断裂になると、後遺障害等級と補償額はどうなりますか?

労災事故で肩の腱板断裂(けんばんだんれつ)を負った場合、肩関節の動く範囲(可動域)の制限や痛みの残存度合いに応じて、8級、10級、12級、14級のいずれかの後遺障害に認定される可能性があります。

労災保険からの障害補償給付に加え、会社側に安全配慮義務違反があれば、慰謝料や逸失利益として損害賠償請求ができるケースも少なくありません。

ただし、腱板断裂は「加齢による五十肩が原因だ」と会社や労働基準監督署から疑われやすく、すんなりと認定や賠償が進まないケースが多い傷病でもあります。

本記事では、腱板断裂で認定される後遺障害等級の基準や、受け取れる金額の目安、そして適正な補償を得るための手続きと注意点について弁護士が詳しく解説します。

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腱板断裂とは

肩の腱板とは、肩関節を支え、腕を上げたり回したりする重要な4つの筋肉(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の筋腱の集合体のことを指します。この腱板が、強い衝撃や過度な負担によって破れてしまった状態が腱板断裂です。

腱板断裂の主な症状は次のとおりです。

① 肩の激痛・夜間痛

特に夜寝ているときに肩が激しく痛み、眠れなくなる(夜間痛)。

② 可動域の制限

腕を上や横に挙げられなくなる、または腕を挙げようとすると痛む。

③ 筋力低下

腕に力が入らず、荷物を持ち上げたり維持したりできない。

④ 軋轢音(あつれきおん)

肩を動かすと「ゴリゴリ」「ブチッ」といった音がする。

単なる「肩の打撲」や「四十肩・五十肩」だと思って放置していると、断裂部位が広がり、最悪の場合は肩関節がほとんど動かなくなってしまうおそれもあります。

労災事故で腱板断裂となるよくある事例

肩の腱板断裂は、仕事中や通勤中の以下のような事故によって発生することが多く見られます。

① 高所からの落下・転落事故

建設現場や脚立から転落した際、とっさに手や肩をついて強い衝撃を受けた。

② 重量物の搬入・持ち上げ作業

非常に重い資材や荷物を無理な姿勢で持ち上げようとした際、肩に過度な負荷がかかって断裂した。

③ 機器や機械への挟まれ・巻き込まれ

工場の作業中に腕や肩が機械に引っ張られ、強い外力が肩関節にかかった。

④ 転倒事故

床の油や水で滑って転倒し、肩を強打した。

このように、一瞬の強い外力によって生じるケースもあれば、日常的に肩を酷使する重労働の継続によって断裂に至るケースもあります。

腱板断裂で認定される後遺障害

治療やリハビリを一定期間(一般的には半年〜1年以上)続けても症状が治りきらない場合、労災保険上の後遺障害(障害等級)の認定申請を行います。

腱板断裂で認定される後遺障害は、大きく分けて「機能障害(肩関節の動きにくさ)」と「神経障害(痛みやしびれ)」の2種類があります。

機能障害

機能障害とは、腱板断裂によって肩関節の動き(可動域)が著しく制限された状態を指します。健側(けがをしていない側の肩)の可動域と比較して判断します。

後遺障害等級 認定基準(肩関節の可動域制限)
8級6号 肩関節の用を廃したもの(肩関節が完全に固まって動かない状態、または健側の可動域角度の10%以下に制限されている場合など)
10級10号 肩関節の機能に著しい障害を残すもの(健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている場合)
12級6号 肩関節の機能に障害を残すもの(健側の可動域角度の4分の3以下に制限されている場合)

※主要運動(屈曲・外転など)の測定角度が認定のポイントとなります。

神経障害

可動域の制限がそれほど大きくなくても、肩に慢性的な強い痛みが残っている場合は神経障害として後遺障害等級が認定される可能性があります。

後遺障害等級 認定基準(痛み・しびれなどの神経症状)
12級12号 局部に頑固な神経症状を残すもの(MRIなどの画像所見や医学的検査により、痛みの原因が客観的に証明できる場合)
14級9号 局部に神経症状を残すもの(証明までは困難だが、事故状況や治療経過から痛み・しびれの存在が医学的に説明できる場合)

腱板断裂の検査

腱板断裂の適切な等級認定や会社への賠償請求において、医学的検査を行っておくことは重要です。

① MRI検査

レントゲン写真(X線)は骨の状態しか写らないため、柔らかい組織である腱板(筋肉・筋腱)の断裂は写りません。腱板断裂の有無や断裂の大きさを正確に診断するためには、MRI検査が必須です。

② 超音波(エコー)検査

リアルタイムで肩の動きを見ながら腱板の状態を確認できる検査です。

③ 徒手検査・可動域測定

医師が角度計を用いて、他動(医師が動かす)、自動(本人が動かす)の可動域を測定します。

事故後、早期にMRI撮影を行っていないと、「仕事中の事故で切れたのではなく、もともと切れていたのではないか?」と疑われるリスクが高まりますので注意が必要です。

腱板断裂の治療

腱板断裂の治療法には、大きく分けて「保存療法」と「手術療法」の2つがあります。

① 保存療法

服薬、注射、リハビリなどで痛みを抑え、肩の機能を維持・回復させる方法です。断裂の範囲が小さい場合や、高齢で手術のリスクが高い場合に選択されます。

② 手術療法(腱板修復術など)

関節鏡(内視鏡)を用いて、切れてしまった腱板を骨に縫い付ける手術などが行われます。若年者や重労働に従事する方、保存療法で痛みが改善しない場合に選択されます。

どちらの治療法を選ぶ場合でも、医師の指導のもとで適切なリハビリを根気強く続けることが、後遺症を最小限に抑えることはもちろん、適切な後遺障害認定を得るためにも欠かせません。

労災保険の補償

仕事中の事故で腱板断裂と認められた場合、労災保険から各種給付を受けることができます。主な補償内容は以下のとおりです。

療養補償給付

腱板断裂の治療にかかる医療費・手術費用・リハビリ費用が全額無料(自己負担なし)となります。

休業補償給付

腱板断裂の治療やリハビリのために仕事を休み、給料を受け取れない期間について支給されます。給付基礎日額の約80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。

障害補償給付

症状固定(これ以上治療しても改善しない状態)後、後遺障害等級に認定された場合に支給される給付です。

  • 第1級〜第7級(年金)
    給付基礎日額の数日分が毎年支給されます。
  • 第8級〜第14級(一時金)
    等級に応じた給付金(障害補償一時金+障害特別支給金)が支給されます。

たとえば、12級に認定された場合の一時金の目安は次のとおりです。

  1. 障害補償一時金:給付基礎日額の156日分
  2. 障害特別支給金:20万円(定額)

会社への損害賠償請求

労災保険だけでは被害者が受けた損害のすべてが補償されるわけではありません。特に労災保険からは精神的苦痛に対する慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料)が一切支給されません。

安全配慮義務とは

会社(事業者)には、労働者が安全かつ健康に働けるように必要な設備や環境を整える安全配慮義務(労働契約法5条)があります。

たとえば、人手不足の中で無理な重量物運搬を強制していた場合や、脚立・足場の安全点検を怠っていた場合、適切な保護具や安全教育を提供していなかった場合などは、会社に安全配慮義務違反(または使用者責任)が認められる可能性があります。

その結果、労災保険でカバーしきれない残りの損害(慰謝料や逸失利益の不足分など)を会社に直接損害賠償請求することができます。

会社へ損害賠償請求できる内容

① 後遺障害慰謝料

後遺障害が残った精神的苦痛に対する賠償です。たとえば、12級であれば約290万円、10級であれば約550万円、8級であれば約830万円が裁判基準の目安となります。

② 傷害慰謝料(入通院慰謝料)

入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛に対する賠償です。たとえば、腱板断裂で6か月通院した場合であれば116万円、1年通院した場合であれば154万円が裁判基準の目安となります。

③ 逸失利益(いっしつりえき)

後遺障害によって将来得られるはずだった収入の減少分(喪失分)の補償です。【年収×後遺障害に応じた労働能力喪失率×喪失期間に対応するライプニッツ係数】で計算されます。

会社への請求により、労災給付とは別に数百万円から数千万円程度の金額が支払われるケースも多く存在します。

よくあるご質問

加齢(四十肩・五十肩)の影響とされてしまうことはある?

加齢(四十肩・五十肩)の影響とされてしまうことはあります。

腱板は40~50代以降になると、自覚症状がなくても経年劣化(変性)を起こしやすくなります。そのため、「今回の事故で切れたのではなく、加齢による五十肩の延長(素因)だ」と指摘され、労災認定が否定されたり、損害賠償額を減額(素因減額)されたりするケースがあります。

この場合、次のような主張をして、加齢の影響ではないと反論しましょう。

  1. 事故前の肩の健康状態がよかったこと
  2. 事故時の衝撃が強かったこと
  3. 事故直後の強い激痛や症状があったこと
  4. 事故後できるだけ早い段階でのMRI画像で外傷的変化があること

手術するかしないかで後遺障害の等級は変わる?

手術するかしないかで後遺障害の等級は変わる可能性があります。

手術をしない場合、断裂部が放置されるため痛みが継続しやすく、可動域制限が残って後遺障害が認定されやすくなることがあります。

一方で、手術を行って綺麗に修復できた場合、可動域制限が改善して機能障害(8級・10級・12級)は認定されないことが多いです。ただし、手術を行っても痛みやしびれが残る場合は、12級12号や14級9号などの痛み(神経障害)として認定されるケースがあります。

手術を行うかどうかは断裂の程度や医師の診断によります。手術により機能が回復すると可動域制限による等級認定(8級〜12級)は受けにくくなりますが、無理に手術を避けると症状の悪化や治療上の不利益につながるおそれがあります。

まとめ:まずは弁護士へ相談

労災事故による肩の腱板断裂は、単なる打撲やねんざとは異なり、長期の療養や著しい後遺障害につながる重い傷病です。

「本当に妥当な後遺障害等級が認定されるだろうか?」「会社に対して安全配慮義務違反で請求できるだろうか?」

このような不安をお持ちの方は、適切な後遺障害等級の認定と適正な補償や賠償金の回収に向けて、早期に労災問題に詳しい弁護士へご相談いただくことをおすすめします。