労災保険給付は、会社が請求するものではなく、原則として被災した労働者本人が請求するものです。
会社が労災と認めない場合や、手続・事業主証明に協力してくれない場合でも、会社の対応を待つ必要はなく、労働者本人が労災保険給付を請求できます。休業補償などの請求書は原則として管轄の労働基準監督署へ、労災指定医療機関で療養の給付を受けるための請求書(治療費関係)は受診する医療機関へ提出します。
会社側の対応をただ待つのではなく、早めに自分自身で直接申請手続きを進めることが早期給付への一番の近道です。
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会社の労災の手続きが遅い理由
労働災害が発生した際、会社(事業主)は労働者からの求めに応じて請求書に事故の事実を証明したり、申請に必要な協力をしたりする義務を負っています。
それにもかかわらず手続きが著しく遅れてしまう背景には、主に以下のような理由が存在します。
担当者が不慣れで時間がかかっている
小規模な会社や労災事故が滅多に発生しない企業では、人事・総務の担当者が労災保険の手続き手順や提出書類の作成方法を熟知していないケースが少なくありません。
添付書類の収集に手間取ったり、労働基準監督署に何度も確認しながら進めたりしているため、悪気はなくとも結果として申請までに大幅な時間がかかってしまうことがあります。
担当者が多忙で手が回らない
総務部門や人手の不足している現場では、担当者が通常の業務や別の労務管理に追われており、労災申請の手続きが後回しにされてしまうことがあります。
特に被災労働者が休職に入ってしまうと、職場内で直接の催促などが行われにくいため、放置状態が長期化しやすい傾向にあります。
意図的に手続きを遅らせている
問題があるケースとして、会社が意図的に労災申請を妨害・遅延させている場合があります。たとえば、次のような理由からです。
① 労災隠し
労災事故の発生を労基署に報告すると労働基準監督署の査察が入ることを恐れている。
② 労災保険料の増額の懸念
(一定規模以上の事業主などの場合)業務災害が発生して給付が行われると、将来的な労災保険料の値上がり(労働災害の発生状況に応じて保険料が増減する「メリット制」の適用)につながることを懸念している。
③ 元請けや取引先への影響
建設現場などで元請け企業から「事故を起こすな」と言われており、ペナルティや指名停止処分を恐れて事故を表沙汰にしたくない。
このような会社側の保身や自己都合によって、申請書類の記入や事業主証明の発行が不当に引き延ばされることがあります。

会社の労災申請が遅い場合のデメリット
会社の対応が遅れて労災保険の申請手続きが進まないと、被災された労働者ご本人やそのご家族の生活に重大な不利益が生じます。
治療が十分にできないおそれがある
本来、労災指定病院で治療を受ける場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号等)」を提出することで、窓口での医療費支払いが不要(無料)になります。
しかし、会社の対応が遅れて給付手続きが進まないと、病院の窓口で治療費の実費全額を一時的に立て替えたり、高額な医療費を支払えないために必要な検査や継続治療を断念せざるを得なくなったりするリスクが生じます。
休業補償の支払いが遅くなる
仕事中のけがや病気で働くことができない期間、生活を支える給付となるのが労災保険の休業補償給付です。
会社の申請手続きが遅れれば、当然ながら労基署からの休業補償の振り込みも大幅に遅れます。傷病で働けず収入が途絶えている中で治療費や生活費の支払いに困窮し、精神的・経済的に追い詰められた状況に陥ってしまいます。
会社の対応が遅いときの対処法
会社がいつまでも動いてくれない場合、労働者が取れる具体的な対処法は以下のとおりです。
会社と交渉する
まずは会社の人事・総務担当者や上司に対し、口頭だけでなく書面(メールやLINE、郵送など履歴が残る形)で早急に手続きを進めるよう催促します。
「〇日までに申請書類を作成・提出してもらいたい」「難しければ自分で労基署に持参するので事業主証明の欄に押印して返送してほしい」と明確な期限を定めて交渉することが有効です。
労働基準監督署に相談する
会社の対応があまりにも遅い場合や、「労災は使わせない」「自分で勝手に申請するな」などと拒絶された場合は、管轄の労働基準監督署へ直接相談に行きます。
労基署から会社に対して指導や指示を出してもらうことで、会社が動き始めるケースもあります。
自分で直接申請する
会社の手続きを待つ必要は全くありません。
労災保険の請求権者はあくまで被災労働者自身です。労働基準監督署の窓口や厚生労働省のホームページから指定の申請様式を入手し、ご自身で必要事項を記入・押印の上、直接提出することができます。
専門家に相談する
自分で直接申請を行おうとしても、書類の書き方がわからないときや、会社と直接やり取りをするのが強いストレスであるといった場合は、労働災害の実務経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
初動対応など、今後どのように進めていけばいいのかについて、早期に相談することで方針が明確になります。

よくあるご質問
自分で労災申請するために必要な書類は?
自分で申請する場合でも、提出する書類は会社経由で出す場合と基本的に同じです。具体的には、次のような書類が必要です。
- 請求書(指定様式)
- 医師の証明:請求書内にある「医師・歯科医師の証明欄」に主治医から傷病名や療養期間の証明・押印をもらったもの
- 治療費の領収書や処方せんなど(費用を立て替えた場合)
- 賃金台帳やタイムカードの写し:休業補償の計算(給付基礎日額)に必要な資料
会社が労災申請の書類にサイン(事業主証明)しなくても申請できる?
会社がサインや押印(事業主証明)を拒否・放置した場合でも、労基署へ直接申請することが可能です。
労災請求書の事業主証明欄を空欄にしたまま、「会社に証明を求めましたが、対応してもらえませんでした」という経緯を記載した理由書を添えて提出すれば、労基署は書類を受理して調査を開始してくれます。
ただし、通常より給付決定までに時間がかかる場合がある点には注意が必要です。
労基署に書類を提出してから休業補償の振込までの期間は?
初回の申請の場合、書類を労基署に提出してから休業補償が振り込まれるまでの期間は、およそ1〜2ヶ月程度が目安となります。なお、2回目以降の継続申請では、通常1〜2週間程度で振り込まれます。
ただし、事故の状況について会社側と労働者側の言い分が食い違っている場合や、専門医の鑑定を要する複雑な事案(高次脳機能障害や過労死・メンタルヘルス不調など)では、調査に数ヶ月から半年以上かかることもあります。少しでも早く給付を受けるためにも、1日も早い提出が必要です。
労災保険ではなく健康保険で治療をしてもよい?
仕事中や通勤途中の事故によるけがについて健康保険を使用することは原則としてできません。
会社の対応が遅いからといって、とりあえず自分の健康保険証を使って治療を受けてしまうと、後に健康保険組合から返還請求をされてしまうことがあります。必ず病院の窓口で仕事中の事故である旨を伝え、労災扱いで受診してください。
まとめ:ただ待つのではなく行動する
仕事中の不慮の事故で負傷した際、会社の労災申請対応が遅いと、経済的な不安や会社への不信感から強い精神的ストレスを抱えてしまいます。
しかし、知っておくべき大切なことは「労災保険は会社にお願いして申請してもらうものではなく、労働者自身の権利として直接申請できるもの」ということです。会社が手続きに不慣れであったり、意図的に放置・拒絶したりしている場合は、会社の対応を待つ必要はありません。
ご自身で請求書類を作成して労基署へ直接提出するか、その後の手続きなどに不安がある場合は弁護士などの専門家へご相談ください。