仕事中の労災事故によって高次脳機能障害を発症した場合、残った症状や介護の必要性、労働能力の低下度合いに応じて「1級・2級・3級・5級・7級・9級・12級・14級」のいずれかの後遺障害等級に認定されます。
認定される等級によって、労災保険から給付される年金や一時金の金額は大きく変わります。
また、事故の発生について会社側に安全配慮義務違反などの法的責任がある場合、労災保険とは別に会社に対して民事上の損害賠償(慰謝料や逸失利益など)を請求することができ、受取総額が数千万円規模にのぼるケースもあります。
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高次脳機能障害とは
高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)とは、頭部への強い衝撃による脳損傷や、低酸素脳症などが原因で脳の神経回路が傷つき、言語・記憶・注意・思考・感情といった人間的な高度な脳機能に障害が生じた状態を指します。
肢体不自由などの身体的な障害と異なり、見た目には分かりにくいケースが多いため「見えない障害」とも呼ばれます。事故前とは人が変わったようになってしまったり、これまで問題なくこなせていた業務や日常生活に著しい支障をきたしたりすることが大きな特徴です。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害の症状は多岐にわたりますが、実務上は主に次のような障害(認知障害、人格変化・行動障害、失語・失認・失行、身体症状・その他の神経障害)に分類されます。
認知障害(記憶障害・注意障害・遂行機能障害など)
人格変化・行動障害
失語・失認・失行
身体症状・その他の神経障害
片麻痺(半身の麻痺)、運動失調、てんかん発作、著しい疲れやすさ(易疲労性)などの症状です。
高次脳機能障害になりやすい病名
労災事故で頭部を負傷した際、診断書やカルテに以下のような病名(診断名)が記載されている場合は、高次脳機能障害を発症している可能性があります。
- 外傷性脳損傷(TBI)
- びまん性軸索損傷(DAI):脳全体に強い回転力が加わることで、神経線維(軸索)が広範囲に断裂・損傷する病態
- 急性硬膜外血腫・急性硬膜下血腫
- 外傷性くも膜下出血
- 脳挫傷:脳組織そのものが直接的な打撃によって破壊・出血した状態
- 低酸素脳症:窒息事故、化学物質の吸入、心肺停止に伴う脳の酸素欠乏が原因で生じる脳損傷

高次脳機能障害が労災になる場合
労災とは
労災(労働災害)とは、労働者が仕事中や通勤途中に発生した事故・出来事が原因で、けがをしたり病気になったり、障害が残ったり死亡したりすることをいいます。
労災保険(労働者災害補償保険)が適用されると、公的補償として治療費の実費や休業中の手当、後遺障害に対する補償などが支給されます。
高次脳機能障害が労災として認定される具体的なケース
業務中の事故によって頭部外傷を負い、高次脳機能障害を発症した場合、労災(業務災害)として認定されるためには「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たす必要があります。
① 業務遂行性
労働者が労働契約に基づき、事業主の支配・管理下にある状態のこと(仕事中や事業場内にいる状態など)。
② 業務起因性
業務(仕事)と傷病(高次脳機能障害)との間に相当因果関係が存在すること。
具体的には以下のような現場事故が代表的です。
高次脳機能障害の後遺障害の認定基準
労災保険において高次脳機能障害の後遺障害等級が認定されるためには、単に「頭を打った」というだけでは不十分であり、原則として厚生労働省が定める要件を満たす必要があります。
具体的には、原則として次の3条件を満たす必要があります。
- 頭部外傷の受傷時の意識障害の存在
- CTやMRIによる脳損傷の画像所見
- 事故後の認知障害・行動障害の存在
認定される可能性がある後遺障害一覧
労災の後遺障害等級表において、高次脳機能障害(神経系統の機能又は精神の障害)に用意されている等級は、障害の程度に応じて以下の8つの等級(1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級、14級)に分かれています。
| 等級 | 障害の程度・判定の概要 |
|---|---|
| 1級 | 生命維持に必要な身のまわり処理に常時介護を要するもの |
| 2級 | 生命維持に必要な身のまわり処理に随時介護を要するもの |
| 3級 | 終身労務に服することができないもの(介護不要) |
| 5級 | 特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 7級 | 軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 9級 | 服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 12級 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| 14級 | 局部に神経症状を残すもの |
1級の認定基準
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(1級1号)です。
食事・排泄・着替え・移動など、日常生活の生命維持に関わる基本的な動作全般について、自力で行うことができず、終日他人の介護(常時介護)を必要とする状態などです。寝たきり状態や、重度の認知障害・抑うつにより自傷他害のおそれがあり常に監視を要するケースが当てはまります。
2級の認定基準
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(2級1号)です。
日常生活の基本動作のうち、部分的に自力で行えるものはあるものの、怪しい行動や安全管理ができないため、常に誰かが声をかけたり付き添ったり(随時介護)しなければ、一人で安全に生活することが不可能な状態などです。
3級の認定基準
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの(3級3号)です。
自宅での身のまわりの動作(食事やトイレなど)は一人でこなすことができるため介護までは必要としないものの、記憶障害や感情障害が非常に重く、いかなる職種であっても働くこと(就労)が不可能な状態などです。
5級の認定基準
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(5級2号)です。
一般的な職場で通常の業務を行うことは不可能ですが、被災前の勤務先などで周囲の手厚い指示や配慮・管理のもと、極めて単純で作業手順が決まっている軽作業であれば、限定的に従事できる状態などです。
7級の認定基準
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの(7級4号)です。
一般平均人と比較して作業能率や持続力が著しく低下しており、複雑な業務やスピードを求められる業務、他者との円滑なコミュニケーションを要する業務に就くことができず、就労可能な職種が単純で軽易な作業に大きく制限される状態などです。
9級の認定基準
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(9級10号)です。
就労自体は可能ですが、高次脳機能障害の症状(日常的な物忘れ、根気が続かない、対人トラブルを起こしやすいなど)が存在するため、事故前と同等の職務をこなすことができず、配置転換や担当業務の軽減などの制約を受けている状態などです。
12級の認定基準
局部に頑固な神経症状を残すもの(12級12号)です。
高次脳機能障害による明らかな認知障害や人格変化とまではいえないものの、頭痛、めまい、耳鳴り、記憶力の低下などの神経症状が他覚的な検査結果(MRI画像や神経心理学的検査)によって客観的に証明できる状態などです。
14級の認定基準
局部に神経症状を残すもの(14級9号)です。
画像上に明らかな異常所見までは確認できないものの、受傷時の意識障害の存在や治療経過、本人の主訴の整合性などから、頭痛や易疲労性などの症状が存在することが医学的に説明可能な状態などです。
高次脳機能障害の等級認定を適正に受けるためのポイント
高次脳機能障害は、手足の切断や骨折と異なり「レントゲンを撮れば一目で障害がわかる」というものではありません。そのため、労災の後遺障害申請において、実態に即した適正な等級を獲得するためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
① 受傷直後の意識障害の記録(JCS / GCS)を確保する
事故直後にどの程度の意識障害(気絶や意識混濁)があったかどうかは、脳損傷の重大性を証明する重要な指標です。
救急搬送時のレスキュー記録や集中治療室(ICU)での医療記録から、Japan Coma Scale(JCS)やGlasgow Coma Scale(GCS)のスコアを記録します。
② 頭部画像データ(CT・MRI)の異常所見を裏付ける
受傷直後および症状固定時の頭部CT・MRI画像を収集します。
特に「びまん性軸索損傷(DAI)」などの場合、通常のCT検査では異常が映らないことが多いため、より精密なMRIの「DTI(拡散テンソル画像)」や「SWI(磁化率強調画像)」といった特殊撮影の追加を医師に打診することが有効です。
③ 適切な神経心理学的検査を受ける
脳の各機能の低下度合いを数値化・客観化するために、専門医療機関で次のような検査を受診します。
- WAIS-IV(ウェクスラー成人知能検査):IQや言語理解、作業記憶などを測定
- WMS-R(ウェクスラー記憶検査):記憶力を総合的に測定
- TMT(トレイルメイキングテスト):注意分配や集中力を測定
- CAT(標準注意検査法)
- BADS(遂行機能障害症候群の行動評価法)
④ 家族による日常生活状況報告書をしっかりと作成する
医師は短時間の診察しか行わないため、患者の自宅での「怒りっぽくなった」「片付けができなくなった」「約束を忘れる」といった具体的な行動の変化を把握しきれません。
そのため、ご家族が事故前の状態と比較して「日常生活でどのような問題が起きているか」を詳細に記載した「日常生活状況報告書」を提出することが等級判定の重要な参考資料となります。
労災認定された場合の補償内容
労災保険から支給される補償は、事故直後の治療段階から後遺障害認定後まで、時期や状況に応じて概ね以下のように整理できます。
① 治療中
- 療養補償給付(治療費・入院費・手術費用などの全額実費)
- 休業補償給付(休業中の一定の生活補償)
② 後遺障害認定後
- 障害補償給付(1〜7級は年金。8〜14級は一時金)
- 障害特別支給金(一律8〜342万円の定額一時金)
- 障害特別年金・障害特別一時金(ボーナス分を反映した給付)
- 介護補償給付(1~2級など、継続的な介護が必要な場合に毎月支給)
なお、労災保険の給付は被災労働者や遺族を救済することを目的とするものですが、あくまで公的な生活補償であり、精神的苦痛に対する慰謝料などは含まれていません。
会社への損害賠償請求
事故の原因について、会社側に安全対策の不備(足場の安全管理不足、過酷な長時間労働の放置、機械の安全装置未設置など)や同僚の過失がある場合、ご遺族や被災労働者は、労災保険からの給付とは別に、会社に対して民事上の損害賠償を請求できます。

よくあるご質問
労災保険から慰謝料は支払われる?
労災保険から慰謝料は一切支払われません。
労災保険は治療費の実費や休業中の最低限の収入補償を目的とした公的保険制度であり、精神的苦痛に対する慰謝料という給付項目が存在しないためです。
慰謝料を受け取るためには、安全配慮義務違反などを理由として、会社に対して民事上の損害賠償請求を行う必要があります。
認定に納得できない場合はどうする?
労災保険(労働基準監督署)において決定された後遺障害等級に不服がある場合、決定を知った日の翌日から3ヶ月以内であれば、労働者災害補償保険審査官に対して、審査請求(不服申立て)を行うことができます。
審査請求でも不服がある場合は、さらに労働保険不服審査会への再審査請求や、裁判所への行政訴訟を提起する方法もあります。
新たな医証(追加の画像検査や医師の意見書など)を揃えて不服申立てを行うことが重要です。
請求が時効になることはある?
給付や請求の種類ごとに時効が存在します。具体的には次のとおりです。
- 療養補償給付・休業補償給付:2年
- 障害補償給付(後遺障害):症状固定日の翌日から5年
- 会社に対する損害賠償請求の時効:5年(ただし例外あり)
時効を迎える前に弁護士へ相談し、請求手続きを進める必要があります。
まとめ:まずは弁護士に相談
仕事中の不慮の事故によって高次脳機能障害を負ってしまった場合、被災されたご本人はもちろん、日常的に看病や介護を支えるご家族の精神的・経済的負担は計り知れません。
高次脳機能障害は、認定される後遺障害等級によって、労災保険から支給される生涯の年金支給額や、会社に請求できる損害賠償額が大きく変動します。
しかし、目に見えにくい高次脳機能障害の症状を正確に立証し、労基署や会社側と対等に対応を進めることは、ご本人やご家族だけで行うには極めて難易度が高く、大きなストレスを伴います。
よつば総合法律事務所では、労働災害や高次脳機能障害案件の実務経験が豊富な弁護士が、適切な後遺障害等級の獲得から、会社に対する適正な損害賠償請求まで、親身にサポートいたします。一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。