くも膜下出血の発症前に、過重な業務負荷(長時間労働や急激な作業環境の変化、強度の精神的ストレスなど)が存在し、業務と発症との間に相当因果関係が認められれば労働災害として認定されます。
労災認定を受けることで、治療費や休業中の給付、後遺障害が残った場合の給付などを受けることができます。
万が一、仕事中にくも膜下出血を発症した場合は、①直ちに適切な医療機関を受診して労災診療の手続きを行うこと、②発症前の労働時間や業務負荷を示す客観的証拠(タイムカード、PCログ、業務メールなど)を確保すること、③所轄の労働基準監督署長に対して労災申請を行うことが重要です。
さらに、会社側が長時間労働や過重業務を把握しながら放置していた場合や、安全衛生管理体制を怠っていた場合は、会社に対して「安全配慮義務違反」に基づく民事上の損害賠償(慰謝料や、労災給付でカバーされない逸失利益の差額など)を請求できることがあります。
労災でお困りの方へ
弁護士による無料相談受付中

※本予約ダイヤルでの電話相談は行っておりません。
仕事中のくも膜下出血が労災に認定される基準とは?
くも膜下出血は、脳の表面を覆う「くも膜」と「軟膜」の間の隙間(くも膜下腔)に存在する血管(脳動脈瘤など)が破裂し、頭蓋内に出血が生じる脳血管疾患です。
一般的には加齢や高血圧、遺伝的素因といった個人的要因(私的疾病)も発症に関与しますが、業務による過重な負荷が加わることで発症した場合、労働災害として認められます。
労災とは
労災(労働災害)とは、労働者が業務上の事由、または通勤による事由によって負傷し、病気にかかり、障害が残り、あるいは死亡することを指します。
業務上の事由による災害を「業務災害」と呼び、労災保険から労働者やその遺族に対して各種保険給付が行われます。
業務遂行性
業務災害として認められるための第1の要件が「業務遂行性」です。
これは、労働者が事業主の支配・管理下にある状態で傷病(くも膜下出血等)が発生したことを意味します。勤務時間中に工場やオフィスで業務を行っていた場合や、出張中、事業主の指示に基づく業務移動中などに倒れた場合は、原則として業務遂行性が肯定されます。
ただし、くも膜下出血のような脳血管疾患においては、単に「勤務時間中に倒れた」という業務遂行性のみでは直ちに労災と認められず、「業務起因性」の証明が必要となります。
なお、過労によるくも膜下出血などの脳血管疾患の場合、必ずしも「勤務時間中に職場で倒れた」こと(業務遂行性)は必要ありません。帰宅後や休日、就寝中に自宅で発症した場合であっても、発症前の過重な業務が原因であること(業務起因性)が証明されれば、労災と認定されます。
業務起因性
労災認定の第2の要件であり、最も重要なハードルとなるのが「業務起因性」です。
これは、業務(仕事)と発症した傷病(くも膜下出血)との間に「相当因果関係」が存在することを意味します。
くも膜下出血をはじめとする脳血管疾患は、個人の基礎疾患(高血圧や脳動脈瘤など)も発症要因となり得るため、労働基準監督署は「業務による過重な負荷が、血管の病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、発症に至らせたか」という観点から審査を行います。
くも膜下出血の労災認定基準
厚生労働省は、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の労災認定基準を定めています。
くも膜下出血が労災認定されるためには、発症前の業務において以下のいずれか(または複数)の過重負荷が存在したと認められる必要があります。
異常な出来事(発症直前から前日までの過重負荷)
発症直前から前日までの間に、極めて深刻な事故、著しい恐怖・極度の精神的緊張を強いる出来事、または急激で著しい作業環境の変化(極端な暑熱・寒冷環境での急激な身体的負荷など)を経験した。
短期間の過重業務(発症前おおむね1週間以内の過重負荷)
発症前おおむね1週間以内に、日常業務と比較して特に過重な身体的・精神的負荷(連続勤務、長時間の出張、休日返上の徹夜作業など)を伴う業務に従事した。
長期間の過重業務(過労死ライン・発症前1ヶ月〜6ヶ月間の長時間の過重労働)
発症前1ヶ月から6ヶ月間にわたり、著しい長時間労働(いわゆる過労死ライン)が存在した。具体的基準は次のとおりです。
- 発症前1ヶ月間に、おおむね100時間を超える時間外労働(休日労働含む)が存在した。
- 発症前2〜6ヶ月間のいずれかの期間において、1ヶ月あたり平均80時間を超える時間外労働が存在した。
- 発症前1〜6ヶ月間におおむね45時間を超える時間外労働が存在し、かつ「勤務間インターバルが短い」「不規則な勤務」「出張が多い」「精神的ストレスを伴う作業」などの負荷要因が複合的に認められる。
くも膜下出血が労災認定される具体的なケース
くも膜下出血が労災認定される可能性が高い具体的な事例は次のとおりです。
過労死ラインを超える長時間労働が常態化していたケース
発症前の直近1ヶ月間の時間外労働が110時間、あるいは直近3ヶ月間の平均時間外労働が85時間に達しており、休日がほとんど確保されていなかったような場合です。
発症直前に業務上の重大なトラブルや異常事態が発生したケース
発症当日に、業務上の重大なミスや顧客からの過酷なクレーム対応、事故対応に直面し、急激かつ過度な精神的ストレス(血圧の急上昇を引き起こすレベル)を受けたような場合です。
著しい温度差や激しい身体的負荷に直面したケース
真冬の極寒環境下で急激に激しい屋外作業(重物運搬等)を行い、血圧が乱高下したことによって脳動脈瘤が破裂・発症したような場合です。

くも膜下出血が労災認定されると受け取れる労災保険の種類と金額
くも膜下出血が労災として認定された場合、労働者やその遺族に対して次のような補償があります。
療養補償給付
くも膜下出血の治療にかかる医療費、手術費、薬剤費、入院費、看護料、移送費などが給付されます。
給付額:実費全額(指定医療機関を受診した場合は窓口での自己負担は0円)
休業補償給付
くも膜下出血の療養のために仕事を休み、給与・賃金を受け取れない場合に支給されます。療養のため労働できず、賃金を受けない日の「4日目」から支給されます。
給付額:給付基礎日額(発症前3ヶ月間の1日あたり平均賃金)の60%(休業補償給付)+ 20%(休業特別支給金)= 合計80%
傷病補償年金
くも膜下出血の発症後1年6ヶ月を経過した時点において、なお完治(治癒)しておらず、その傷病による障害の程度が傷病等級(1〜3級)に該当する場合に支給されます。
給付額:傷病等級に応じて、給付基礎日額の313〜245日分の年金、および傷病特別支給金(一時金)
障害補償給付
くも膜下出血の治療が終了(症状固定)したものの、高次脳機能障害や言語障害、身体麻痺などの後遺障害が残った場合に支給されます。
給付額:後遺障害等級(1〜14級)に応じ、1〜7級は年金(給付基礎日額の313〜131日分/年)、8〜14級は一時金(給付基礎日額の503〜56日分)
介護補償給付・介護給付
障害補償年金または傷病補償年金の受給権者のうち、重度の後遺障害(1級または2級の一部)により、常時または随時介護を要する状態にある場合に支給されます。
給付額:月額で実際の介護費用支出額(上限あり)または定額
遺族補償給付
くも膜下出血により労働者が亡くなられた場合、遺族に対して支給されます。
給付額:受給権者である遺族の数等に応じ、遺族補償年金(給付基礎日額の153〜245日分/年)または遺族補償一時金、および遺族特別支給金(300万円)
葬祭料
死亡した労働者の葬祭を行う者(遺族等)に対して支給されます。
給付額:給付基礎日額の30日分+215,000円、または給付基礎日額の60日分のいずれか高い方の額

くも膜下出血の後遺障害等級
くも膜下出血を発症した場合、脳の損傷部位や範囲によって重篤な後遺症が残ることが少なくありません。労災保険では、残存した症状の重さに応じて「後遺障害等級(1級〜14級)」が認定されます。
認定される等級
くも膜下出血の後遺症としては、主に「高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害等)」や「身体の麻痺・運動障害」「言語障害(失語症・構音障害)」などが挙げられます。認定される代表的な等級基準は以下の通りです。
| 等級 | 後遺障害の内容 |
|---|---|
| 1級 | 生命維持に必要な身のまわり処理動作について、常時介護を要するもの |
| 2級 | 生命維持に必要な身のまわり処理動作について、随時介護を要するもの |
| 3級 | 生命維持に関する身のまわり処理動作は可能だが、終身労務に服することができないもの |
| 5級 | 極めて制限された極めて手厚い指導・配慮下でなければ、一般的な労務に服することができないもの |
| 7級 | 作業の種類・内容が極めて制限的なものに限られるもの |
| 9級 | 一般的な労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため就労可能な職種・態様が相当程度制限されるもの |
| 12級 | 障害の存在が医学的に証明できる神経症状(局所の頑固な神経症状等)が残るもの |
認定されると労災からもらえる金額
障害補償給付として受給できる金額は、認定された「後遺障害等級」および被災労働者の「給付基礎日額(事故前3ヶ月の平均賃金)」によって決定されます。
障害給付の算定例(給付基礎日額が1万円の場合)は次のとおりです。
① 1級の場合
障害補償年金として年間313万円(1万円×313日) + 障害特別年金 + 障害特別支給金(一時金342万円)
② 7級の場合
障害補償年金として年間131万円(1万円×131日) + 障害特別年金 + 障害特別支給金(一時金159万円)
③ 9級の場合
障害補償一時金として391万円(1万円×391日) + 障害特別支給金(一時金50万円)
※障害補償年金は、受給要件を満たしている限り、被災者が生存している間、毎年(年6回に分けて)継続して支給されます。
会社への損害賠償請求ができる具体的なケース
労災認定を受けたとしても、国の労災保険制度から支払われる給付だけでは、労働者が受けたすべての損害が埋まるわけではありません。
特に、精神的苦痛に対する補償である「慰謝料」は、労災保険からは1円も支給されません。
また、将来得られるはずだった収入の補償である「逸失利益」や「休業損害の不足分」についても、労災保険の給付だけでは不足が生じます。
もし、会社が過重な労働環境や長時間労働を把握しながら防止措置を講じていなかった場合などは、会社に対して「安全配慮義務違反(労働契約法5条・民法415条)」または「使用者責任(民法715条)」に基づき、民事上の損害賠償請求を行うことができます。
会社へ請求できる金額
会社に請求できる損害賠償額は、事故前の減収額、年齢、後遺障害等級や「労災から受け取った金額の控除(損益相殺)」などを考慮して計算します。主な請求費目は次のとおりです。
なお、特別支給金(約20%)は別途労災保険からもらうことができます。
よくあるご質問
くも膜下出血の労災申請および損害賠償に関して、ご相談者様からよく寄せられるご質問にお答えします。
元々の持病があっても労災認定される?
元々の持病(高血圧、脳動脈瘤、高脂血症等)があった場合でも、労災認定を受けることは十分に可能です。
くも膜下出血は血管の病変(脳動脈瘤など)が存在することが多いため、会社や労働基準監督署から「本人の持病(私的疾病)が原因であって、労災ではない」と主張されるケースが少なくありません。
しかし、厚生労働省の労災認定基準においては、「業務による過重な負荷が、持病や基礎疾患の自然経過を超えて著しく増悪させ、くも膜下出血を発症させるに至った」と医学的に認められれば労災として認定されます。
また、民事上の損害賠償請求においても、持病の存在が直ちに会社の責任をゼロにするわけではありません。労働者側の素因が関与したとして「素因減額(過失相殺に類似する賠償額の一部減額)」となることはあっても、会社の過重労働管理に問題があれば、相応の損害賠償責任が認められます。
労働時間を証明する証拠はどうやって集める?
タイムカードのほか、PCのログデータ、メール送受信履歴、配車表、GPSデータなどを集めます。
会社側がタイムカードを開示しない場合や、タイムカードの打刻後に「サービス残業」を行わせていた場合でも、次のような証拠を組み合わせることで労働時間を立証できることがあります。
- パソコンの起動、シャットダウンのログデータ
- 業務メール、チャットツール(Slack、Teamsなど)の送受信タイムスタンプ
- タクシーの利用領収書
- 交通系ICカードの乗車履歴
- 会社の警備システムの入退館記録
- アルコールチェック記録
- 家族への「今から帰る」などのSNS(LINEなど)メッセージ送信履歴
- 手帳や日記、メモ帳への業務内容・退勤時刻の自筆記載など
また、裁判所を通じた「証拠保全手続き」「文書提出命令」を活用することで、会社が保管する客観的データを受け取れることがあります。
まとめ:悩んだらまずは弁護士に相談
仕事中のくも膜下出血は、ご本人にとっても、支えるご家族にとっても、あまりに突然で過酷な事態です。
労災認定の審査(特に長時間の過重労働や異常な出来事の立証)は非常に専門性が高く、労働基準監督署とのやり取りや複雑な資料収集を個人で行うのは極めて大きな負担となります。
また、国の労災補償だけでは「慰謝料」や「将来の逸失利益全額」はカバーされないため、会社の安全配慮義務違反を追及して適切な損害賠償を回収することが、被災後の生活を守るために極めて重要となります。
「過労死ラインに達しているか判断がつかない」「会社がタイムカードを出してくれない」「示談金額が適正か確かめたい」という方は、ぜひお早めに労働災害・過労死案件に精通した弁護士へご相談ください。
よつば総合法律事務所では、労災事故や過労による脳・心臓疾患の被災労働者・ご遺族からのご相談をお受けしております。おひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。